桑(くわ)成分について

(1)桑と健康については、大昔から論じられていたのですか?

鎌倉時代の僧である栄西が記した「喫茶養生記」にすでに詳しく書かれていたようです。糖尿病に対して効果的だという内容です。ちなみに当時は「糖尿病」という病名ではなく「飲水病」と記載されていました。糖尿病だと喉が渇くので水をたくさん飲むようになることから、飲水病と記されたのでしょう。

喫茶養生記では桑の食べ方として、粥に混ぜる方法、煎じる方法、葉を直接食べる方法、桑の実を食べる方法などが挙げられていました。

(2)動物実験で、桑の葉には糖尿病予防の優れた効果があったと聞きましたが・・・

「自然発症糖尿病モデル」といわれるラットがあります。このラットは生後40週ごろから糖尿病を発症するラットです。このラットを3つに分けます、1つには普通の餌を与えます。もう1つには餌に2.5%の桑葉を混ぜます。最後の1つには餌に5%の桑葉を混ぜます。そのようにして46週間育てたところで、空腹時血糖値と経口糖負荷試験を行いました。

普通の餌を与えたラットは、空腹時で337.3mg/dl、負荷後の最大血糖値は724.7mg/dlでした。2.5%の桑葉混入の餌で育てたラットは、空腹時が153.8mg/dl、不可後最大血糖値が369.8mg/dlでした。5%の桑葉混入の餌で育てたラットは空腹時で114.0mg/dl、307.3mg/dlでした。

この動物実験から、糖尿病を発症する素質をもつ動物が発症以前から桑葉を摂取しておくと糖尿病の発症を予防できることが証明されました。

(3)桑の葉に含まれるどんな成分が身体に効果的なのですか?

桑葉に含まれる血糖上昇制御成分を検索した結果、「1-デオキシノジリマイシン」という成分であることが確認されました。略して、「DNJ」と言われます。

(4)桑の成分のDNJは、どのような作用を持っているのですか?

炭水化物が膵臓からの酵素で消化吸収される過程では、一時的に二糖類(スクロース、マルトースなど)というものが形成されます。この二糖類は小腸粘膜の微絨毛の表面に存在する二糖類分解酵素(α2-グルコシダーゼ)の働きを受けてさらに単糖類(グルコース、フルクトースなど)へと変換されます。単糖類に変換されるとようやく小腸から吸収されるのです。

DNJは二糖類分解酵素の働きを阻害します。その結果、二糖類は単糖類に変換されなくなるため小腸から吸収されません。厳密には、まったく吸収されないわけではなく、吸収されるペースが緩慢になるのです。その結果、血糖の急激な上昇が抑えられ、糖尿病治療や予防に効果を発揮するのです。

(5)小腸内で消化されなかった二糖類は、その後どうなるのですか?

大腸に送り込まれて発酵します。大腸内の環境を酸性にするので、有害細菌の増殖を抑え、整腸作用をもたらします。ある研究では、便秘に対する改善効果があり、便秘女性の50%を改善しました。

(6)桑の葉はどのようにして摂取するのがいいのですか?

鎌倉時代の栄西の「喫茶養生記」には、桑粥などの食べ方も記載されていましたが、現代的に最も手軽なのは、お茶にするか、錠剤のサプリメントにするかのどちらかでしょう。

(7)桑の葉のお茶や桑のサプリメントは食前にとるのがいいのですか、食後にとるのがいいのですか?

食べる前に、小腸の酵素をブロックするのがいいですので、食前にとるほうが効果的です。

(8)桑の葉にダイエット効果はあるのですか?

ある研究では、濃い桑の葉のお茶を2週間内服すると、0.5~1.0kgの体重減少が認められたそうです。多少のダイエット効果は期待できるかもしれません。

(9)桑の葉のお茶だけで糖尿病を完全に予防できるのですか?

桑の葉のお茶を毎日飲んでいると、インスリンの必要量を節約できますので、膵臓に余裕を与えることができます。運命的に50歳で糖尿病を発症する予定だった人が、60歳以後まで発症を遅らせるなどの効果は十分に期待できると思います。

(10)糖尿病で内服薬を飲んでいます。桑の葉のお茶を飲み始めた結果、低血糖発作が起こる可能性はありますか?

内服薬だけで良好に血糖コントロールができている患者が桑の葉のお茶を飲むようになったところ、低血糖発作が起こることは滅多にないですが、あることはあります。桑の葉のお茶を少しずつ飲み始めることとブドウ糖を準備しておきましょう。うまくいけば、内服薬を減量できるかもしれません。コントロール不良の糖尿病ではまず低血糖発作は起こりません。

(11)桑の葉のお茶の味が苦手です。

従来のお茶に比べると、確かに味がいいとはいえません。ここで重要なのは桑の葉のDNJという成分が重要ということです。DNJの含量を損なわないようにして、おいしくブレンドされた桑の葉のお茶を選択すればいいでしょう。

(12)結局、桑の葉は糖尿病に効くのですか?

日ごろの診療の中で桑の葉のお茶をすすめたところ、早朝空腹時血糖値とヘモグロビンA1cが低下したという人と、血糖値があまり変わらなかった人は半々ぐらいです。ヘモグロビンA1cが低下する人は、0.3~0.5%の低下です。お茶は日常的に飲んでいるものですから、糖尿病患者は普通のお茶にするよりも桑の葉のお茶にするほうがいいと思います。また、糖尿病の治療そのものよりも、糖尿病予備軍の人への効果のほうが大きいと思われます。

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